働き方

フレックスタイム制を導入する前に考えておきたいこと

多様な働き方のひとつとして「フレックスタイム制」があります。とくにテレワークとの相性が良いこともあって、コロナ禍でも人気があります。子育て世代だけでなく、ワークライフバランスを大切にする傾向のある20~30代にも支持が高い制度です。また、企業規模を見ると中小企業よりも大企業の方がフレックスタイム制の導入に積極的という調査結果が出ています。中小企業では導入は難しいのでしょうか? そのメリットは? デメリットは? 今回はフレックスタイム制の基本を解説します。

フレックスタイム制の事業規模別の導入率

令和3年就労条件総合調査

フレックスタイム制の導入割合が多いのは、1000人以上の大企業ということができるでしょう。ただし、どの規模でも導入率が上昇傾向にあり、100人未満の企業でも年々導入が増えてきています。

フレックスタイム制とは

従業員が自ら始業時刻と終業時刻を決められる制度

フレックスタイム制は、原則として毎日の勤務の始業時刻と終業時刻を従業員自身が決められる制度です。毎日定刻に勤務を開始して定刻に退社する一般的な勤務と比較すると、従業員にとって自由な働き方が可能です。「今日は仕事が多くて忙しいから朝8時にスタートしよう」、「明日は病院に行くから朝10時半スタートにしよう」と、自分の都合で始業時刻を決められるのです。終業時刻も同様です。「今日は仕事が少ないから早く終わらせて遊びに行こう」、というようなフレキシブルな働き方が可能になります。

残業時間は月の全体の労働時間でみる

では次に、労働時間について考えてみます。フレックスタイム制では1日ごとの労働時間は問われず、月の労働時間をトータルでみて清算します。月の所定労働時間は会社ごとに定められていますが、その月の実労働時間が所定労働時間を超えた場合は、残業時間としてカウントされ、残業代の支払いが基本給とは別に必要となります。清算期間は1か月~3か月で認められていますが、現在制度として利用されているのが多いのは1か月の清算期間です。

コアタイム&フレキシブルタイムって何?

コアタイムとは、1日のうちに必ず働かなければいけない時間帯です。会社ごとに任意に決めることができます。フレキシブルタイムは、始業時刻と終業時刻を決定できる時間帯でこちらも任意です。フレキシブルタイムは、出社してもしなくてもよい時帯になりますので、定例会議などはコアタイムの時間帯に設定する必要があります。

コアタイムもフレキシブルタイムも設定しないこともできます。ただし、コアタイムがないと従業員間のコミュニケーションが取りづらくなりますし、フレキシブルタイムがないと昼夜を問わずいつでも働いてよいことになります。従業員の健康管理の面、不要な深夜残業代を抑える面からもフレキシブルタイムはできるだけ設けた方がよいように思います。

フレックスタイム制のメリットは?

①ワークライフバランスの向上
保育園の送り迎えや通院、スキルアップのための習い事など、自分の都合に合わせて働く時間を決めることができるのでプライベートと仕事のバランスが取りやすくなります。
②通勤時間を選べる
満員電車が苦手な人でもラッシュ時間を避けて通勤することが可能です。
③作業の効率化
会社の業務量が少ない日は短く、業務量が多い日は長く働くことによって業務の効率化が可能です。会社にとっては人件費の抑制にもつながります。

フレックスタイム制のデメリットは?

①新入社員には向きにくい制度
入社したばかりで仕事を覚える必要がある人は、教えてくれる先輩との時間を合わせる必要があるため、一般的には自由度の高いフレックスには適さないとされています。また、自己管理ができず、仕事の納期がルーズになってしまうような社員には向いていません。
②より密なコミュニケーションが必要になる
フレックスタイム制を導入すると、全員が同じ時間に出社しているわけではありませんので、ほかの人の出退勤の時刻を把握する必要が出てきます。クラウドのスケジュールツールなどを利用して、コミュニケーションに支障がないようにします。

そのほかの注意点

残業時間の集計に着目
フレックスタイム制は一般的に言って残業代の総額が抑えられやすい制度といわれています。

例えば1日の所定が8時間の会社で、ある月曜日に9時間、ある火曜日に7時間、その月のほかのすべての日について8時間働いたとします。通常勤務の給与計算であれば、月曜日は割増残業代1時間分(125%)、火曜日は不足分控除1時間分(100%)を計算します。一方、フレックスタイム制の場合は、月のトータルでみるので月曜日の残業時間が火曜日の不足分に充てられるため残業時間も不足時間も発生しません。そうすると、通常勤務の方が割増分(25%)1時間のみですが、多く支払われることになります。

細かい点ですが、積み重なると大きな数字になることもあります。メリットとデメリットをよく比較してフレックスタイム制の導入を決めてほしいと思います。

フレックスタイム制よくある質問

大企業でないと導入できないのでしょうか?

そんなことはありません。就業規則に記載をして、フレックスタイム制の労使協定を結べば、どんな会社でも導入できます(厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」を参照)。社内で細かなルール決めをしたい場合には、社労士にアドバイスを依頼するのも手です。顧問契約でなくてもスポットでも対応いたします。

どんな会社がフレックスタイム制に適しますか?

基本的には社員が一人で進められるような仕事が適しています。反対にみんなで協力して進めるような仕事は適していない傾向があります。また、接客業などの対面サービス業は、フレックスタイム制には向かないと考えられます。

フレックスタイム制は「忙しいときは長く働き、暇なときは短く働くことができる」という変形労働制の一種なので、「月の前半は忙しいが後半はそれほどでもない」というような業種・部署などにはおすすめです。必ずしも会社全体でなく、「営業部のみ」というように部署ごとに適用することもできます。労使協定に対象労働者の範囲を決めて記載します。

給与計算はどうしたらいいの? 

前述したとおり、フレックスタイム制では労働時間を月ごとに合計して、残業時間を算出します。前述の「所定労働時間」は下図の「法定労働時間」の総枠の範囲内で決めなければなりません。

清算期間の暦日数法定労働時間の総枠
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165,7時間
28日160.0時間
例外として、完全週休2日制で月所定労働日が23日の場合は、所定労働日数×8時間を法定労働時間の総枠とすることが可能となっています。

残業時間が法定労働時間を超えたら25%以上の割増賃金率で計算した賃金を支払わなければなりません(上図黄色2.9時間分)。ただし、所定労働時間と法定労働時間が異なる場合は、所定労働時間を超えて法定労働時間に達するまではその分の100%の賃金を払うので足り、割増賃金を支払う必要はありません(上図ピンク17.1時間)。%

反対に実労働時間が所定労働時間に不足した場合は、不足分を賃金から控除します(上図水色20時間)。

簡易的に給与計算を済ませたい場合、「所定労働時間を超えた時間について割増率125%以上にする」と労使協定で決めておく手もあります。上図でいうと、ピンクと黄色の20時間(180-160時間)が相当します。ただしこの計算方法をとると、前者の計算方法よりも残業代の額が増えてしまいますので注意が必要です。

導入する場合、どのようなことに気を付けたらよいですか?

社内へのルールの周知が必要です。コアタイムやフレキシブルタイムの考え方や労働時間の集計方法など、該当する従業員に十分に理解してもらえるように説明会などを開く必要があります。また、外部へのルールの説明やチームミーティングの時間など、業務の進め方もチームごとに話し合う必要が出てきます。

年次有給休暇を取得することはできますか?

はい、取得できます。その場合、1日の標準となる時間を労働したものとして取り扱います。給与計算の際には、実労働時間に「1日の標準となる時間×年次有給休暇取得日数」を加えて計算します。

休日出勤の取り扱いは?

週1日の法定休日に勤務した場合は、清算期間における実労働時間とは別なものとして取り扱い、35%以上の割増賃金率で計算した賃金の支払いが必要となります。

スーパーフレックスって何?

コアタイムもフレキシブルタイムも設けない従業員の自由度の高い制度です。育児や介護をしている従業員にはメリットが多い反面、会議が多いような部署には適さないかもしれません。また、スーパーフレックスだからといって好きなときに気ままに休日をとってもよいということではありません。導入する場合は、メリットとデメリットを慎重に検討してほしいと思います。

著作者:pch.vector/出典:Freepik